この銀行だけは、百貨店や飲食店など他のサービス業と比較しても、サービスの満足度として遜色ないです。
印鑑と書類(しかも書式・体裁、印鑑を押す位置、表現などがバラバラ)が多いのが銀行の手続きの特徴ですが、この銀行は手続きに印鑑すら要らないのです。
これだけ大胆に改革を進めた、新生銀行の初期メンバー、それを認めた経営陣に拍手です。
NIKKEI NET
BIZ+PLUS
箭内 昇氏
第73回「銀行の評判はなぜ悪いのか PART1」(2006/08/07)
http://bizplus.nikkei.co.jp/colm/yanai.cfm?i=20060803c9000c9&p=1
<以下、記事抜粋>
遅れる「金貸し業」から「サービス業」への転換
銀行の評判が悪い第2の要因は、いまだに金貸し業からサービス業への頭の転換ができていないことだ。
アメリカの金融界は80年代からマーケティングの経営手法を導入し、顧客志向の商品開発や機能拡充で激しい競争を展開してきた。
あれから4半世紀、今ニューヨークの街を歩けばあらゆる種類の店舗が多様な金融商品を提供していることに驚くはずだ。米銀のホームページを開けば、法人から個人まで広範な金融サービスの選択肢があることにショックを受けるだろう。アメリカではすでに金融機関はサービス業であり、とうに顧客が銀行を選別する時代になっている。
だが、日本の金融界では三井住友銀行のスワップ押し込み販売事件に象徴されるように、いまだに脅迫や詐欺まがいの腕力商売がまかり通っている。
6月21日に発表された公正取引委員会の「金融機関と企業の取引慣行に関する調査報告書」も顧客志向とは程遠い法人取引の実態を浮き彫りにしている。30.3%の企業が銀行からの各種要請を「断りにくく」感じており、意思に反して要請に応じた企業の59.8%が「次回の融資が困難になる」ことを恐れたというのだ。
個人取引の面でもサービスの悪さは旧態依然だ。店頭では顧客を立ったまま1時間以上も待たせるし、振込用紙に長ったらしい行名を書かせても何とも思わない。ネット振り込みで振込先を1字間違えただけで店頭に呼び出され、新しい取引を始めようとすればうんざりするほど多くの書類を書かされる。
7月31日付の日本経済新聞「クイックサーベイ」の記事によれば、普段利用している銀行に「不満」という回答が約20%もある。その内容も「営業時間が短い」「窓口の待ち時間が長い」「銀行ごとの違いに乏しい」「行員の接客態度が悪い」などサービスの基本に関するものが多い。
だが、金融界全体を見ればこの数年で日本にもサービス路線をまい進する銀行が台頭している。そのリード役は外資系や異業種から参入した新興勢力だ。
最先端を行くのは新生銀行だ。ロビーからカウンターを撤去し、代わりにスターバックスを招いた。顧客を最初に迎えるのはロビー係ではなく支店長であり、取引はすべてブース内で1:1の対面式で進められる。
事務面では顧客に書かせる書類を廃止し、振り込み手数料を無料とするなど従来の常識を覆すサービスを提供した。商品面でも「満期は延期されるかも知れないがその分高利回り」というユニークな定期預金を開発して大ヒットした。
こうした改革は顧客に歓迎され、新生銀行はこの数年顧客満足度調査でトップランクをキープしている。
セブン&アイ・ホールディングスの系列でコンビニATMを全国展開するセブン銀行(旧アイワイバンク銀行)も金融サービス業の先駆者だ。
開業6年目でセブンイレブンの店内ATMは1万1,500台を突破して全国の銀行で最多になった。近所に銀行がなくてもセブンイレブンさえあれば預金の出し入れができる時代になったのだ。提携先の金融機関も532に達し、今やセブン銀行のATMは消費者の生活に不可欠な「社会インフラ」の一部と言ってよい。
「ATMだけの銀行なんて成り立つはずがない」。アイワイバンクがスタートしたときどの大手銀行も冷笑した。銀行のATMはどこも赤字だったからだ。だが、セブン銀行はすでに2004年3月期に黒字転換し、今年度は経常利益が約200億円と最高益を更新する見込みだ。
今年3月から定期預金や銀行代理店業務を開始し、来春からは個人向けローンもスタートする。セブンイレブンやイトーヨーカ堂の顧客が最大10万円程度をATMで借りたり返したりする小口カードローンである。大手銀行が目も向けない小さなマーケットだが、こうした業務多角化でセブン銀行がますます消費者の支持を拡大することは間違いない。
「持てる者」と「持たざる者」で分かれた戦略
日本の大手銀行は10年以上前から異口同音に金融サービス業への転換をうたっている。「優秀な」人材もひしめいている。それなのになぜ、外資系や後発銀行の後塵(こうじん)を拝するのだろう。
最大の要因はやはり預金、融資という既存業務の比重があまりに高いことだ。大手銀行はサービス改革などしなくても過去の遺産であと10年は十分食いつなげる。
この点、新生銀行は店舗も顧客も少ない。きめ細かいサービスで富裕層を取り込むか付加価値をつけたインターネットなどで幅広く小口客を集めるしかない。セブン銀行にいたってはATMしかない。顧客はゼロからの出発だ。ATMを活用したサービス強化でマーケットを拡大するしかない。
新生もセブンも立ち止まった瞬間に倒れる。この危機感こそがサービス改革の原動力だ。
それでも大手銀行の中ではりそなグループが最も熱心にサービス改革を進めているだろう。
細谷英二会長(JR東日本出身)は就任以来サービス改革を経営の柱に掲げ、さまざまな施策を繰り出してきた。営業時間の延長、待ち時間の短縮、ホテルなどへの行員派遣、全国的なサービス改革運動、サービス改革本部の創設、女性による店頭改善チーム組成などなど。細谷会長にはJR民営化の成功の原点がサービス改革だったという強い思いがあるのだろう。差別化が困難な日本の銀行界では、サービス改革が競争力強化に直結するという信念もある。
だが、残念ながら細谷会長の期待からすればりそなのサービス改革はまだ道半ばだ。店舗改革や待ち時間短縮などは大きな成果を上げたし、専門機関による調査でも店頭サービスは3年前の「断ペケ(断トツの反対)」からトップランクにまで大改善した。だが、顧客に驚きや感動を与えるほどには「突き抜け」ていない。新生銀行やセブン銀行のようなイノベーションが見当たらないのだ。
イノベーションを阻む銀行マンのDNA
阻害要因になっているのは、りそなに限らず日本の銀行マンが共有する「高いプライド」「自己本位」「官僚主義」という3点セットのDNAだ。
数年前、大手銀行はサービス改革を目指してマーケティングのプロなどを積極的に採用した。だが、彼らの多くはすでに銀行を飛び出している。
「彼らは聞く耳を持っていないのです」。そのひとりが筆者に愚痴をもらした。「私の意見や企画は『そんなことわかっている』『そんなことできっこない』『他部門の了解が取れない』と言って結局却下されるかたなざらしにされるのです」というのだ。「本当はわかっていないくせに認めない」「自分より優れたものを受け入れない」。この排他的で天動説的なDNAを捨てない限り、日本の銀行にサービス改革などできるはずがない。
新生銀行は改革に抵抗する行員を切り捨て、外部から大量の人材を補給することで強引にDNAを組み替えていった。
だが、日本の銀行に同じまねはできない。結局時間をかけてDNAを組み替えながら、行員の意識改革を進めるしかない。
そのためには外から銀行界を見直し、天動説を打ち壊すしかない。まずは足と体で顧客のニーズを探ることからはじめるべきだ。現場主義と言ってもよい。
先日亡くなった花王の丸田芳郎元社長は、現役時代しばしば終日スーパーの片隅から顧客動向を観察し、ライバル商品を買った客を追いかけて「なぜ花王の商品を買ってくれなかったのか」と質問したという。究極の現場主義であり顧客志向だ。
新生銀行の八城社長はアドバイザーであるジョン・リード元シティ会長が来行するつど一緒に支店を回り、店頭の隅々まで見てもらったという。顧客サイドから見たアドバイスをもらっていたのだろう。
前述した新生銀行のプロジェクトチームでは、行員が手分けして他行に口座を作り、顧客としてライバルのサービス状況を徹底分析した上で戦略を策定したという。
その一人から聞いた話も興味深い。「顧客サイドに立って見直してみると、昔の長銀や今の大銀行は顧客軽視の自己本位な世界だったと痛感しました」というのだ。この旧長銀マンが体験した意識転換や自己否定こそがサービス改革の原点だ。
りそなの行員(社員)のサービスマインドは他の銀行に比べればはるかに旺盛かもしれない。サービス改革の本質を理解する行員も着実に増えている。だが、銀行キャリアが長くなるほど抵抗勢力も多い。3点セットのDNAを捨てられないでいるのだ。
頭で考えるサービスと体で実感するサービスには天地の差がある。銀行窓口のこちら側と向こう側もまったくの別世界だ。銀行マンはまず窓口カウンターの向こう側に座り、自分の店舗を観察することから始めるべきだ。お客様の意見や感想が聞ければもっとよい。
次は山のように寄せられている顧客クレームの分析だ。単に所轄部門が整理した総括表を眺めるのではなく、個別具体的に掘り下げることが肝心だ。友人知人から自分の銀行の悪口を収集するのも有効だ。 そして最後に顧客として新生銀行や郵便局など好感度の高い金融機関を回ってみるとよい。できれば投信の購入など実際の取引をしてみたい。
これだけ実行すればどんな銀行マンでも意識が変わり、サービス改革にも拍車がかかるはずだ。

